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技術紹介
2017/07/04

酸素測定

ブログ

培養プロセスにおいて溶存酸素(Dissolved Oxygen, D.O.)を計測することは、培養経過を監視する基本的かつ重要な仕様として、今日では広く普及している。

微生物の呼吸速度を測定する手段として、オフラインではあるがワールブルグ検圧計が用いられ学生実験の教材にもなった。

また、第二次世界大戦後のペニシリン醗酵工業が勃興してきた時には、回転式裸白金電極を用いて、何とかして培養中微生物の呼吸速度を測定しようとの工夫がなされた。(前号掲載)その後、Clark型電極と呼ばれている隔膜式電極が実用化され手軽にDOを測定することができるようになった。しかし、醗酵槽の中で培地とともに蒸煮滅菌に耐える電極を利用できるようになるまでには、様々な工夫が必要であった。1970年代初めから蒸煮滅菌ができる電極 (sterilizable electrode)を目指して各所で開発が行なわれた。解決するべき問題点は、蒸煮によって密封された 電極内部液が膨張して隔膜として使用されているPTFE膜が破れてしまうことであった。国内においては、当社創業者の山縣民敏は密封構造の電極の外側にシリコンゴム製の緩衝膜を設けることによりPTFE膜の破損を解決し「Y型電極」とした。(図1)

また、大橋実博士は、コップを逆さにして液中に押し込んだ時に気相空間ができることを利用して完全密封ではなくすることにより解決し、「大橋式酸素電極」と呼ばれた。(図2) もちろん欧米でも開発が行なわれ、USAのNBS社、スイスのインゴールド社なども実用化に成功し、醗酵槽における酸素測定が普及していった。

図1

図2

醗酵槽の中でDOを測定することが珍しいことであった時期には、醗酵槽の納品時には、真っ先にDOが測定できる原理、蒸煮滅菌に耐える仕組み、PTFE膜の張り方、電極内部液の入れ方などの説明をしなければ、お客様には納得していただけなかった。

その当時、酸素電極のことについては、蒸煮滅菌はできなかったがベックマン社の電極が有名であり、その取扱説明書を首っ引きで読んで、原理や使い方を学習した。その中に面白い、しかし重要な記述がある。

・隔膜式酸素電極の出力は、液中の酸素分圧に比例するものであり溶存酸素の値に比例するので はない。

図1

図2

図3

そのことの具体的な説明として下図のような実験を取り上げている。

以上のような事情があり、隔膜式酸素電極を用いた酸素計ではppm(mg/L)で表した目盛(表示)だけではなく、%表示 (大気圧下での空気飽和状態を100%として校正する)が併用されている。

これから使おうとしている培地の大気圧飽和時の溶存酸素濃度を得るためには、ウィンクラーのアジ化ナトリウム変法などによらなければならない。

(工場排水試験法JISK0102参照)